第一章

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 ここは、とある研究所の一室。  足の踏み場もないくらいモノで溢れかえった部屋の隅っこで研究に没頭していたアンダーソン博士は、手にしていたフラスコにうつる自分の顔をじっと見て、言った。 「どう思うね、君」 「何がですか?」  近くで掃き掃除をしていた助手の磯部(いそべ)が、博士に顔を向ける。  この研究室には今、博士と磯部しかいなかった。  アンダーソン博士は世界的にもすごく有名な科学者だが、異様なまでの人嫌いでも有名だった。それに彼は、そのたぐいまれな頭脳と、人間離れしたマルチタスクで大抵のことなら独りでこなしてしまう。彼の基本的な性格と人智を超越した能力が、磯部以外の人材を必要としなかったのだ。  「私の顔だよ。学歴で例えるとどれくらいかね。正直で構わないから言ってみたまえ」 「俳優の池中君の顔面偏差値を東大レベルとするなら、博士は中卒程度でしょうか」  池中君とは、女子高生人気ナンバーワン、抱かれたい俳優ランキングでも首位の若手俳優である。実は磯部は、この池中君にひそかに憧れていた。 「なかなか辛口だね。もう偏差値以前の問題じゃないか」 「何を今さら寝ぼけたことをおっしゃるんですか。論外ってことですよ。仮に四十歳若くても考察対象外でしょう」  磯部の口調は、上司に向けたものにしては冷淡だったが、その内容に関しては決して誇張などではなかった。これまで磯部が現実・創作問わず見てきた生物の中で、博士は文句なしのぶっちぎりで不細工だった。 「不服ではあるが妥当な分析だと思うよ。人よりちょっと個性的な顔とスタイルをしているせいで、私はこの人生で異性からモテた例がひとつもない」 「同情します」
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