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「これで、あと身長が二十センチ高くて体重が二十キロ減って顔の骨格とパーツの配置をいい感じに改善すれば、過去はこんなはずじゃなかった」
博士はその肥えたお腹をさすりながら、そんなふうに絶対に在り得ないことを主張した。もはやそれは別人だ。磯部は心の中でそう思った。
「しかし、頭脳は人よりも遥かに恵まれたじゃないですか。生きたエジソンとまで呼ばれた世紀の発明王アンダーソンに、天は二物を与えないってことですよ。今さら容姿に不満をもったって手遅れなんですから、そんなふざけたこと言ってないでさっさと研究してください」
「手遅れというのは間違っとるよ、君。私はね、この忌まわしき過去を払拭するために、ついに不細工な私でも池中君並みにモテモテになってしまう薬を発明してしまったんだ」
「え、本当ですか」
「ああ、本当だとも」
博士は嬉しそうに、背後のキャビネットの引き出しから怪しげな箱をとりだした。
磯部は、博士がその箱を大事そうに扱っていたのを以前に見たことがあった。しかし、スケベな道具でも入っているのでは、と邪推することはあっても、そんな大発明品が眠っているとは微塵も思っていなかった。
博士は箱を開けた。中には、いくつもの美味しそうなビスケットが入っている。
「ビスケット、ですか」
「そう。見た目と味を考慮して私の大好きなビスケットを模ってはいるが、正真正銘の惚れ薬だ。名付けて奇跡のモテモテビスケット。ひとカケラ。ひとカケラで充分だ。たったひとカケラで、こんな私でも一瞬で池中君クラスの良い男の仲間入りだ。こずえちゃんだってメロメロにできる」
こずえちゃんというのは、日曜の連続ドラマで主演をしている、最近、話題沸騰中の若手女優である。博士は、このこずえちゃんのファンだった。
「最近、博士は薬学系に触っていないものだと思っていました。モラルはともかくとして、それが本当なら世紀の大発明ですよ。僕が試してみてもいいですか? 一個ください」
「なにをばかなことを言っとる!」
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