第一章

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 博士はそのもじゃもじゃの眉を逆立てて、怒鳴り声をあげた。 「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。僕だって長年恋人もつくらずに博士の研究に従事してきたんですから、発明品を試す権利くらいはあると思います」 「ただでさえ貴重な発明品を、君みたいな男でテストすることはできん」  一通り見せびらかした博士は箱のふたを閉じると、それをもとの引き出しの中にしまった。きっちりと鍵をかけるのも忘れない。 「そろそろ睡眠の時間だ。私は帰る。くれぐれも変な気はおこさないでくれたまえよ。じゃあ、戸締りと掃除を頼んだ」  博士が帰ったあと、助手はキャビネットに近づいた。ピンセットや金具を使ってこじ開けようとしたが、実はこのキャビネットは盗難回避用に博士が直々に作った最強のキャビネットであり、複雑な構造をなしているため、ちょっとやそっとのことでは開けることはできそうにない。  助手はこの研究所に勤めてもう五年になる。当初は憧れのアンダーソン博士の下で働けることに誇りを持っていたが、いつになっても自分に与えられるのは掃除や簡単な実験ばかりで、最近はこの生活に嫌気がさしていた。また、彼も博士ほどではないが、研究に大半の時間を捧げてきたせいで女性と交際した経験がなかった。  どうせここにいても、やることは掃除や装置の整備くらいだ。磯部はあの発明品さえ手に入れば、ここで研究人生が終わりを迎えようと構わないとすら思った。彼はそれだけ今の生活に絶望し、かつ女性からモテる生活に心から憧れていたのだ。
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