第二章

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 ぱりーん、とガラスが割れる音と共に、全身黒タイツの男が転がるように入ってきた。磯部は音のした方を見た。窓ガラスが割れている。どうやらこの黒タイツの男は、研究室の窓を何か固いもので割って強引に侵入してきたらしかった。男は手にナイフを持っている。 「七色の声と巧みな変装でどんな厳重なセキリュティもかいくぐり、狙った宝石は確実に、鮮やかな手口で盗み出す、怪盗グッナイ! ……に憧れて、五年前に泥棒に転職した三井だ。サインはお断りだぜ」  ここで言う怪盗グッナイとは、数年前、爆発的にヒットしたドラマに出てきたイケメン大泥棒のことだ。グッナイに影響を受けたドラマ視聴者が、全国の宝石店やブランド品店に盗みに入るという社会現象まで引き起こした。ちなみにデビューして間もない池中君が演じた。 「グッナイというくせにこんなアフタヌーンから盗みに来るんだな。その潔さは認めてやってもいいが、それで怪盗が成り立つと思っているのならどうかしている」 「それにグッナイの正装は黒のタキシードですよ。なんですかその黒タイツ」  博士と磯部の分析は冷静である。 「予算不足でな。脳内フィルターをかけて見てほしい。……ええい、今はそんなこと、どうでもいいんだ。お前があの有名なアンダーソン博士だな。テレビで見たことあるぞ。今日はお前の発明品を盗みにきた」 「生憎、我々はお前のような無能の相手をしている暇はないのだよ。今日のところは見逃してやるから、その壊した窓ガラス代を置いてさっさと出ていきたまえ」 「というか博士、棚を厳重にするくらいなら、窓の方ももう少しなんとかしましょうよ。こんなポンコツに一撃で侵入されては先が思いやられます。せめて強化ガラスにしましょう」 「そんな悠長なことを言っていられるのも、今のうちだぜ」  すると三井は、無防備だった磯部の腕をつかんで自分の方へと引き寄せた。そして、洗練された素早い動きで磯部の両腕を後ろに組ませ、動きを封じ込めると、首筋にナイフを押しあてる。要するに三井は磯部を人質にとったのだ。 「ひっ! 博士! 助けてください!」 「こいつの命が惜しければ、今すぐ金になる発明品をよこせ」 「やだ」 「こいつの命がどうなってもいいのか?」 「いい」
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