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博士の、あくまでも人命よりも自分の発明品を死守しようとするその態度に、磯部は少し腹が立った。所詮僕はただのハンバーグ製造機としか見られていなかったんだ、三井の腕の中で磯部はそうも思った。
「泥棒さん、どうか早まらずに聞いてください。白状しますと、奥のキャビネットに博士の発明品が保管されています。博士、出し惜しんでないで早くわたしてください。じゃないと僕が死んでしまいます」
「ばかもの! なにをバラしとる!」
「なるほど。じゃあ、それを今すぐよこせ」
三井がナイフにぐっと力をこめると、磯部の首筋から少しだけ血が流れた。磯部が悲鳴を上げる。どんなに利己的な博士でも、それまで自分好みのハンバーグを無限に作り続けてくれた助手のあわれな姿を見て、良心が傷んだ。彼はしぶしぶ、キャビネットの引き出しの鍵を開け、中から例の箱を取り出した。
三井はその箱を強引に奪い取った。
「確かにいただいたぜ。おっと、動くなよ。俺が完全に逃げ切るまで、こいつは人質にさせてもらおうか。あばよ。アンダーソン」
三井は磯部を人質にとったまま、風のように研究所から去っていった。
アンダーソン博士は顔面蒼白になった。何十年と時間をかけて開発した人生大逆転のアイテムが、いま失われようとしている。ついでに上手なハンバーグを作ってくれる助手も。
人嫌いで鎖国的な生活を送っていた博士も、このときばかりは手段を選んでいられなかった。彼は、研究所の固定電話で警察に連絡をした。
私の大事な発明品が盗まれた。ついでに助手も人質にとられている!
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