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プロローグ
男の壮大な夢は叶いつつあった。
長い間、膨大な資料を漁り、精査し、そして実際に現地に赴いては、検証を繰り返して来たが、個人で出来うる範囲は限られており、今までは全て徒労に終わっていた。
それまでに幾らの費用が掛かったか知れない。
学生時代に、その魅力に取り付かれてから、三十年近くの月日も費やした。
その間、就職もし、結婚もした。
時間の流れに応じて、生活も変化して行ったが、男は夢を失わなかった。
いつしか、男にとってのそれは、唯一無二の趣味として、彼の一部になっていた。
妻も結婚当初は、男の趣味に付き合いもしたが、それも暫くの間だけで、段々と嫌気がさし、大喧嘩になった事もある。
しかし、その趣味以外には遊びと言う遊びもせず、酒もギャンブルもせず、家族を蔑ろにした訳でも無く、ただその事だけに没頭し続けた年月を過ぎて、初老を迎えた今、半ば諦め、半ば応援と言う境地に至り、妻は何も言わなくなっていた。
壮大な夢を追い続ける男のロマンと言うものを理解した訳では無いが、認めてはいた。
それを良い事に、男は長年に渡り、休日を趣味に生きてきたのだ。
そして、その夢が叶うのだ。
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