プロローグ

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それは偶然に見つけた資料から、彼が探し当てたものだった。 その文章を始めて見た時、男はそこに表面には現われていない意味がある様に思えた。 それが確かであるかどうかは解らなかったが、男は自分を信じ、その方向へ向かって、通説に囚われる事無く、また当たり前の解釈をせず、一つ一つ検証をして行った。 自分の方向が間違っていたら、何処かで矛盾が出てきたり、無理矢理こじつける必要が出てきたりする。 それまでの彼は、それらを繰り返していた。 表面に出てくる矛盾を、無理のある解釈で、自分に都合良くこじつけた。 それで結果が出る様なものであれば、その手法も間違いでは無いのだろうが、彼の趣味はそれで結果が出る様なものでは無かった。 しかし、今回はそれまでとは違っていた。 彼が信じ、検証して行く方向性に対して、矛盾も無理矢理なこじつけも必要が無かった。 一つを検証すれば、その次の道が開かれ、その道を検証して辿れば、無理なく目指す方向へ進んで行かれた。 彼は夢中になった。 そして、資料の発見から三年を経て、やっと答えを見つけ出したのだった。 今、その背中に背負ったリュックサックの中には、証拠の品が入っている。 それを探す為に一週間の休暇を取った。 彼が、長期の有給休暇を取るのは、自身の結婚以来の事であり、勤務態度も優秀な彼に対し、重要な仕事も無い閑散期の時期に、会社もそれを認めない理由は無かった。
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