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家に向かう道を歩き始めたところで、スマートフォンが鳴った。
メールやラインでは無く、電話の呼び出しだった。
母親からだ。
直ぐに電話に出ると、母親の優しい声が聞こえてきた。
「美紅ちゃん、いまどの辺りにいるの。」
遅い帰宅を心配した母心なのだろう。
電車が遅れた事は、彼女にも解っているし、メールでの連絡も入れてある。
それでも電話をかけてくると言う事は、大体の帰宅時間を予想しての事だろう。
「今、歩いているところ。
ちょっと本屋さんに寄ったから、遅くなったけれど、もう少しで家に着くよ。」
「そう、解ったわ。」
娘が自宅の近くまで戻っている事を確認した母親の、安心した声音が聞こえてきた。
「迎えに行った方がいい。」
娘を気遣っての母の問い掛けに、娘は、
「大丈夫よ。」
と、その気遣いを断った。
美紅の頭痛は治まっていなかったが、それでも歩けない程では無い。
一瞬あった目眩も、それきり襲っては来なかった。
夕飯の支度をしてくれているだろう母親に、その手を休めてまで、わざわざ来てもらう程では無かった。
幸い家路には、暗い通りは無いし、人も多いので危険は少ない。
友人の中には、痴漢や変質者に遭遇した者もあり、通報したとか、逃げたとか、そんな話を聞いた事もあるが、彼女は一度も危険な想いをした事が無かった。
そんな地元の道を、同方向へ向かうサラリーマンやOL、自分と似た様な学生や生徒に追い抜かれながら、美紅はゆっくりと歩いて行った。
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