プロローグ

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夕食後、美紅は自室に戻り、先ず、何時もの様にその日に出された宿題を片付けた。 頭痛は既に治まっていたので、それに悩まされる事は無かった。 帰宅した時には残っていた頭痛のせいで、あまり食欲が無かったのだが、その日の夕飯は美紅の好物であった。 でき立ての料理が放つ香りが美紅を刺激した。 父は未だ帰宅していなかった。 母が言うには、父もまた、電車が遅延した事に影響されている様だった。 「少しでも食べよう」 そういう気になり食卓に着いたのだが、食べ始めると自然と箸が進んだ。 そうして夕飯を食べている間に、いつの間にか頭痛は治まっていたのだ。 それからは頭痛があった事も、目眩を起こした事もすっかりと忘れ、普段と変わらない時間が過ぎて行った。 宿題に続いて、復習と予習を済ますと時計は十時半を指していた。 やはり帰宅が遅くなってしまった分、普段より遅れていた。 それもあって、入浴はシャワーで済ませようと考えたが、体は風呂に浸かる事を望んでいた。 幾ら若いとは言え、疲れがあったのだろう。 普段とは少しばかり違うこの日、一日を終えた体は、怠さを訴えていたのだ。 そして十一時を回った頃、美紅は風呂場にいた。 湯の浮力に体を預けると、今日の疲れが体から湯の中へ溶け出して行っている感じがして気持ちが良く、温い湯にゆっくりと時間をかけて入った。 疲労と言うものが本当に溶けて無くなるものならば、この際、その疲れを全て出し切ってしまいたかった。 そうすれば、ゆっくり眠れるだろうし、その眠りによってリセットされた心身は、新しい日々を楽しく過ごせる様になるだろうと思っていた。 そうして芯から体を暖めた彼女は、その夜、深い眠りに着く事ができた。 夢を見る事も無く、気が付いた時には、清々しい気分で、朝の空気と日の光に包まれていた。 若干の怠るさは残っていたものの、自身で気が付く程の体の不調も無かったし、清らかな朝の空気と日光が、その怠るさを霧消させてくれる様だった。 今日も元気に登校すれば、気の置けない友人達との楽しい一日が、彼女を待っていた。
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