第1章

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『その町にはいくつもしがらみがあるんですが、たった一つの芸術がそれを解消してくれるんですよ。ホント、何て名前でしたっけね(そう言うくせに、殺せと命令するんですね)』  この暗号は長文から短い文が浮かび出ることもある。  上司は苦笑したあと、真面目な口調で言った。 『ふむ、興味深い内容だな。名前が分かったら教えてくれ(そうだ。あの男だ。赤井新太郎を)』 『――はい』  赤井新太郎。私の大学時代の親友で、今は小説家として世界でも有名な人物だ。  電話を切ると、私は家へ帰ろうとした。  街はまださわがしく、若者がやかましい。 『差別主義者を許すな! 怒りの鉄槌を!』  彼らは旗を掲げ、高らかに声を上げていた。 『真の平和を! 我々は、マスターアカイの名の下に!』  大名行列のように、若者が街を行進している。  彼らは人種もバラバラで、共通点は若さだけだ。今はタカ派がうるさいのに非常に珍しい。 『BASARAの名の下に! アカイの名の下に!』  列の真ん中の男が、一番大きな旗を掲げていた。  それは、日本アニメのようなイラストが描かれていた。  そのキャラクターは、作中でBASARAと呼ばれている。 「………」  BASARA。  赤井新太郎が書いた傑作中の傑作。世界中で大ベストセラーを記録し、未だに人気は衰えることを知らない。 「BASARA……」  あの小説も、この現実のように様々な思想が交差した。  中にはボランティアや慈愛あふれた行動をする者もいる。だが、ほとんどは目先の正義に囚われ、自分勝手な破壊を起こす者ばかりだった。  BASARAは、そんな奴らを相手に戦った。BASARAはアンチテロリストと呼ばれる。アンチテロリストとは、テロリストだけを狙うテロリストのことだ。 「何が正義で、何が本当か分からなくなった時代だからこそ――あの作品は世界中で愛された。そうなる理由があった」  それなのに――  若者たちがざわつく。彼らは一斉に携帯機器で動画を見た。  私も、彼らから隠れるように路地裏に行き携帯機器で動画を探す。  そこには、赤井新太郎が映っていた。 【世界中の皆様、おっはーい!  赤井新太郎だよ。本日、数ヶ月ぶりに新作が出ます。BASARAの新作、ヨーロッパ死闘編です。  お相手は現在絶賛活躍中のゴミクズたち! 人種差別が好きな奴らだよ!】  と、若者たちの歓声が聞こえる。
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