第1章

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『BASARA』という小説があった。  友人が書いたもののため、どうしても客観的に読めない部分があるが、それでも私はこれが一番好きだ。私の読書歴は本当の活字中毒からすれば失笑ものだろうが、それでも、私は言いたい。BASARAが一番おもしろかった。他のどの本を読んでも、私はBASARAを選ぶだろうと。  何故、一番なのか。何で、BASARAが一番と感じたのか。  それは、時代の影響もあったのかもしれない。あらゆる思想が壁にぶつかり、行き場をなくし、そのために目先の正義に眩む時代だ。  何が本当で、何が正しいのか、分からなくなった。  だから、BASARAは世界中の人々の心をとらえた。  BASARAにはたくさんのキャラクターが登場し、それぞれ己の信念を抱いて戦う。展開もコロコロ変わり、正しいと思ったものが変わり、間違いと思っていたものが変わり、価値観の判定が困難になる。  だが、それでもBASARAの主人公は己の信念を貫き、戦う。  そのひたむきさ、誠実さに読者は感動し、三〇巻を超えるシリーズものになり、日本だけじゃなく世界中で大ヒットした。  BASARAの作者である赤井新太郎(あかいしんたろう)は時の人となり、一時は映画スターよりも注目されるほど――    DETRITUS  1  空間液晶。  天井にあるセンサーが空気中の微粒子に映像データを映し出す。水泡がただよい、水草がたゆたう。色合いは新緑の森だが、実際は水槽の中に作られたアクアリウム。擬似的な森。偽りの森。森のように作られた水の中の偽物。ご丁寧に、映像データはデトリタスまで作っていた。  デトリタス。  視覚的には雪が降ってるようで、キレイだ。だが、実際は、微生物の死骸や小さな排泄物の集まりで、キレイでも何でもない。  だが、見た目だけはキレイだ。  私は思考のリモコンで映像データを消す。余計なものを目にした。  洗面台に行き、ヒゲを剃って顔を洗い手も洗う。  リビングに移動し、指を鳴らして空間液晶のテレビを点けた。 『また、あの小説家が――』  チャンネルを変える。
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