第1章

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『今朝、ベルリンで過激団体同士の抗争がありました。どうやら、最初に攻撃したのは十八歳の少年のようで、とある過激団体の男を射殺。その後、団体の本部まで乗り込んだようです。その後、少年の所属していた団体と衝突になり、死者は一〇〇人を越える――』  私はキッチンで料理をする。米を炊き、みそ汁を作り、卵を焼く。ドイツ人はあまり料理をしないらしい。だから、今私がやっていることは不自然だろう。料理するだけじゃなく、米やみそ汁というチョイスもだ。現代は科学が進んだ二十二世紀。それなりの機器を買えば、自動でしてくれるのも少なくない。 「………」  それなのに、私は料理を作る。 「いただきます」  現代は、科学が発展しすぎたために宗教との対立が激しくなった。 『ヨーロッパ各地でこのような事件は頻発しており――』  ヨーロッパ、アメリカ、いやいや中東もか。多くの人が怒りに燃えた。ロボットやアンドロイド、同性愛者も出産できるips細胞の技術――この空間液晶さえ怒りの対象だ。  さらに油を注いだのは、アジアやアフリカの経済成長だ。昔じゃ考えられなかっただろうが、今は日本を含む有色人種の企業が世界を動かし、導いている。車も、パソコンも、兵器も、家電も、ファッションも、その他娯楽も、ほとんどが彼らの支配下だ。 『そもそも、奴らがおかしいのです。奴らは散々、我々に寄生しておきながら、今じゃ我が物顔でヨーロッパを歩き回っている! あの猿どもが!』  世界中で馬鹿が蔓延した。どの国でも、タカ派が勢力をつけた。  中にはリベラルを唱えるる者もいた。だが彼らも、対立が厳しくなるにつれて行動が過激になり、やってることは変わらなくなっていった。 『しかし、また日本であった事件が起こるのは許せません。いくら、我々の怒りが正当なものだとしても――』  朝食を終えたあと、台所で食器を洗い、もう一人の住人のために書き置きをして家を――いや、その前にもう一度手を洗う。 「――っ」舌打ちした。  それから、外に出た。  ミュンヘンの地下鉄はクラシックが流れ、ホームも昔のSFのようにシンプルですっきりなデザインをしており、まるで映画の中にいるようだ。 「(流れているのは……ベートーベンの「悲愴」か。いや、どうでもいい)」  本を読みながら思考する。
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