第1章

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(確か、設定を入力すると勝手に執筆してくれるソフトから発生した本だったか)  現代では、自動で曲を作り、作詞し、映像も作り――小説まで書くソフトが開発された。巨匠ほどの名作を生み出してはいないが、個々の平均レベルは高く、悪くはない。だから、下手な作家よりそれらの方が売れる事態になっていた。  ……ちなみに、私は嫌いだ。 『Aは襲撃しました』  男は視線を本に向けている。  だが、唇が私に見えるように本をやや下にずらしている。唇は『証拠も残らず、完了です』と告げた。  了解、と私も靴を慣らして返答した。  靴を一回だとイエス、二回だとノー。  彼は少し視線を上げて見てきた。  私は唇を動かし、『では報告書をプランBの方法で渡せ。次の任務は待ち合わせ場所で』と返した。  彼は、その後、すぐに視線をそらさなきゃいけない。  だが、しなかった。 『彼は、十四歳の頃から自分が育てた協力者でした』  どうやら反抗期らしい。  我々はスパイだ。正確に言うなら、日本の民間組織である「情報部(じようほうぶ)」の欧州担当官である。 『家が貧しくて幼い頃から仕事をしていました。過激団体に入ったのも親が原因で彼は悪くありませんでした。それなのに』  やることは至って普通。昔から、どこの国でも行われたことだ。  情報収集、情報操作。そして、破壊工作。  たまに暗殺。  今回のように、誰かと誰かを争わせることもする。昔、CIAがやっていたのと同じだ。日本も中野の奴らがやってたし、他にも国内で色々と――いやそれはいい。 『自分は、彼を殺しました』 『直接、殺したわけじゃない』 『余計にタチが悪い』  確かに。しかし、これが我々の仕事だ。  彼は、そんな仕事に嫌気が差しているようだが。  情報部はフィクションによくあるように内閣府直轄の秘密組織ではなく、民間組織である。  何度もコロコロ変わる政治家じゃ我々の上には立てない。右、左の思想を反復横跳びのように変えられたら、たまったもんではない。  日本は二〇〇〇年代初頭からアメリカの力が弱まり、自国防衛が危うくなった。
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