第1章

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 二〇年代頃にはアメリカはもうウドの大木で、軍備を整えようにも世論が黙ってないし、したとしても周りは核保有国。それならば、と日本は国連との関係性を強め、日本がなくなったら世界中が困るようなシステムを作り上げた。経済と科学技術の支援、専門機関の設立、外交サポート、資金援助――そして自衛隊が国連の管理下に置かれ、日本を攻撃するということは国連を攻撃することになり、もちろん反対する人々も多かったが上手く立ち回り、日本に迂闊に喧嘩を売れないようにした。  だがそれは、同時に日本の行動も制限させた。  あらゆる行動に目が入り、どちらの勢力にも協力できない。  だから、情報部が生まれた。  当時の日本に危惧した政財界のフィクサーが立ち上がり、情報部を設立した。  存在は隠匿され、政治家でさえ知る者はごく僅か。その上、資金は豊富で最新鋭の科学技術もあり、バックアップは万全。メンバーも元公安や軍人が多く、一流どころを揃えている。 『後悔しているのか?』  私は聞いた。  彼は私を睨みつけたまま、唇を動かさない。  隠匿されるからこそ、我々のやってることは下劣で、冷酷で、最低だ。  例えば、の話をしようか。例えば、ある町に貧しい家庭に育った少年がいたとする。最初は何気なく話しかければいい。そして次第に親しくなると飯をおごり、段々とその金をグレードアップさせる。そうなると、もう少年との関係は親密だ。だが、少年に自分の正体をばらすのだ。少年は困った。自分の所属する団体の敵だったのに。これが知られたら自分は処刑される。くそっ、バラされたくなかったら情報を提供しろだと。少年は情報を提供してくれた。何てありがたいことだ。だが残念かな、私たちは少年のような駒をいくつも用意している。だから、いつでも切り捨てられる。  おー困った。とある団体が凶暴だ。おっと、丁度いい所に使える駒があったぞ。  少年を様々な方法で脅し、洗脳まがいのことまでして襲撃させた。大変なのは、被害は少年と被害者だけに留まらないことだ。過激団体二つが抗争するのだ。  あの空間液晶に出ていたのさえ、氷山の一角。  ホントはもっと死んでいる。 『なるほど、きみの言う通り我々のやってることは最低だな。自分でも思うよ。何てこった、死にたくなるほどのゴミクズじゃないかって』  だがな、と私は唇を動かす。
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