第1章

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『奴らもゴミクズだぞ? 奴らが普段集会で何を言ってるか知ってるだろ。有色人種は劣等人種であり、我々とは大いに異なっており、大変下劣でこの世から排除しなければならない。第三者からしたら、異常な光景だな。だが奴らは、そんなヘイトをデスメタルの歌詞にして垂れ流し、ネットにも流して演説するんだ。その結果が、これまで起きた事件だ。何なら今年起きた事件だけでも一つずつ話そうか。まずは空港で起きた観光客の殺害だな、次に移民の娘を集団で――』 『やめてください』 『聞きたくないのか? いや、聞く度胸もないのか?』  私は笑みも浮かべず、唇を動かした。 『確かに、我々の仕事は最低だ。だがな、奴らも最低なんだ』  ようは、ゴミ同士のつぶし合いだ。どっちも反吐が出るほどのゴミクズなのに、どっちも自分なりの正義を持ち、戦う。  皮肉なのは、どっちの正義も共感できるだけの理由があることだ。 『彼らにも理由はある。この国は専門家が多い国だ。何気ない清掃さえ、専門家が行う。それ以外は清掃の業務に就けない。何て非効率だって思うだろ。誰でも働けるようにすれば効率がよくなる。だがな、ここはそういう国なのだ。文化なんだ。だからこそ、失業は大問題なんだよ。過激団体のほとんどは失業者だ。彼らは我々のせいで職を失った。移民だけじゃない、日本を含む有色人種の企業が彼らの産業を圧倒し、奪ってしまった』 『それを知った上で、あなたは戦えと言うのですか』 『そうだ』  私は続きを語る。 『確かに理由はある。だがな、だからって何をしてもいいわけじゃない。そんなの子供でも分かる。彼らの行動はどんな理由があっても認められない』 『だから、倒せと』 『違う。倒すは正確ではない、消すんだ』  唇を動かす。 『もうこれ以上、日本を壊されたくないからな』  東京駅爆破事件。  私が子供の頃に起きた事件だ。  日本は火薬さえ大量に集めるのは大変だが、犯人達は最新鋭の科学を駆使し、世界中の仲間と情報を交換・共有し、武器を現地で製造、そして事件を起こした。犯人の正体は、西洋圏の過激宗教原理主義者。神の教えに従い、有色人種を殺せという奴らだ。日本はアジアの中では西洋圏との関わりが強く、国連とのつながりも強化されたため、外交のパイプ役を担うことが多くなった。だから、彼らにとっては、敵の代表としてふさわしかったのだろう。
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