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何だったんだろうと思いながら個室を出て手を洗う。そしていつもの流れでタオルに手を伸ばしかけ、私の動きは止まった。
つい一時間ばかり前に替えた真っ白なタオル。そこに真っ赤な手形がついていたのだ。
誰か怪我でもしたのだろうか。だとしても、こんなにくっきりと手形が残っているというのも妙な話だ。
ペンキか何かを塗った人がいたずらをした? でも、会社でわざわざそんな真似をする理由が判らない。
何にしても、こんな物をそのままにしておく訳にはいかないから、新しいタオルと交換しよう。そう思い、タオルに触れた時だった。
模様じみていた赤い手形が、タオルを掴んだ私の指先の方へ寄って来たのだ。
この手形に触られてはいけない。本能的にそう思い、私はタオルから手を離した。
身く違いじゃない。確かに手形は動いた。その証拠のように、白いタオル地に、手形が這いずった分の赤い染みができている。
すぐさま逃げ帰りたい気分だったが、ここに白いタオルをかけてしまったのは私だ。その責任感に動かされ、私は掃除道具を使って白いタオルを床へと落とした。それを流し口に置き、思いきり水をかける。
不思議なことに、水がかかった瞬間、赤い手形は跡形もなく消え去った。
恐る恐るタオルに触れるが、もうそれは何の変哲もないタオルだった。でも気味が悪すぎて、私はろくに絞ることもなくそのタオルを捨てると、大慌てで帰路に着いた。
あのトイレで使用するのが赤いタオルでなければならない理由は判ったが、どうしてあんな気味の悪い手形がタオルに浮き上がるのかは判らない。
先輩達は本当に何も知らないのだろうか。明日、今日の出来事を話してもう一度訪ねてみよう。
でもそれより何より、明日は、朝一番で出社して、あのトイレに赤いタオルをかけておかないとね。…うっかり何も知らない誰かが、白いタオルをかけてしまうと困るから。
赤いタオル…完
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