第一章『終わりなき交渉』

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行長がここまで怒りを露わにするのには理由があった。 日の本で領地を隣接している武将・加藤清正の存在である。 行長は、肥後国に任ぜられた佐々成政が国人一揆を抑えられなかった不首尾により死罪となった後、肥後国(熊本県)南半国を秀吉より拝領していた。 しかし、それからというものこの男とは揉めに揉めていた。 ほぼ同時期に肥後国の北半国を加藤清正が拝領したのである。二人とも秀吉の子飼いではあるがもともと仲がよい方ではない。 しかも国替えして直ぐに起こった天草国人衆の反乱では話し合いによる和睦を望んでいた行長を尻目に清正が軍勢を差し向けたために、結局は伐つこととなった。 このようないざこざを数え上げればきりがないが、そもそも日蓮宗門徒である清正に対して行長はキリシタンである。思考が合うはずがない。 秀吉はこの合わない関係を利用して二人を競わせようとしている気配すらあった。子飼いの二人を同じ国内に拝し、それぞれに役割を与えたのである。清正には西海道(九州)全体の睨みをきかせ、行長には明を伐つために渡海するべく朝鮮を帰属させることであった。
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