第一章『終わりなき交渉』

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それから行長はこの戦を続けることに意味はなく、和議を結ぶべく盟友である石田三成に書状を送っていた。 『この戦は既に益無し。和議を結ぶよう殿下にお取計らい願いたく候。』 ________ 「・・・・・・左近。この書状を見よ。」 端整な顔立ちのこの男はいつもの通り眉間に皺を寄せている。左近と呼ばれた男は書状を受け取ると素早く目を通した。 「・・・・・・ここまで戦況は悪う御座いますか。・・・・また主計頭様の報告とだいぶ異なりますな。」 この左近と呼ばれた男の名は島清興。通称島左近。石田三成の筆頭家老にして、三成に過ぎたるものと云われた当代きっての武将である。 左近の云う主計頭とは加藤清正の官位である。 これまで第一軍である小西行長らと第二軍の加藤清正らの報告は共に連戦連勝を伝えるものであった。ところが、夏を過ぎた辺りからその報告が真逆となり始めた。 相変わらず清正からの書状には戦勝の報告が並んでいるが、行長からは苦戦を伝えるものへと変化したのである。更には第三軍の黒田長政、第四軍の島津義弘までもが戦況の膠着と補給の拡充を訴えてきていた。 これらの書状を見る限り、清正がまともな情報を送ってきているとは考えにくい。 「左近。虎之助のことどの様に考える?」 三成は疲れ切った表情で島清興に尋ねた。 三成は清正とは秀吉が近江に任ぜられた時代より共に過ごしており、それなりに仲は良かった。年も二歳程しか変わらず性格の違いはあるものの、お互いに認め合っていた。
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