2人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは、わかってますよ」
あまりにも遠慮も気遣いもない言葉に僕は少しの反抗心を持って言い返してしまった。そんな資格はないのに。
「だったらちゃんとやって」
清水さんは最後、不機嫌な声でそう返し、荒々しく再び椅子に腰掛けた。
室内はさっきまでとは打って変わって気まずい雰囲気が流れていた。
それがまた申し訳なくて居た堪れない気持ちになる。
もう辞めたいよ。
僕は内心で吐露した。
§
結局、僕一人では今日中に仕事は片付かず皆に手伝ってもらう事となった。
清水さんの、中々着火しないライターみたいな舌打ちの連続は今ではもうトラウマです。
「あんまり落ち込んじゃあ駄目よ? 祐介君」
帰り道、風香と聖澤先輩と一緒に家路に着く僕。絶えずため息を溢していると聖澤先輩が慰めてくれた。
そして、柔和な笑みを浮かべながら続けて。
「華凛ちゃんもね、あなたが嫌いで怒ってるわけじゃないから。口は悪いけどあなたの為と思ってる筈よ」
「僕にはそうは見えませんよ。まぁ、仕事ができない僕が悪いんですけどね色々言われるのは」
今の僕の精神状態では何を言われたって自虐的に返す事しかできなかった。
簡単にポジティブになれるほど図々しい性格はしていない。仕事ができないのは紛れもない事実なのだからそれを棚に上げて慰められてもちっとも立ち直れないのだ。
「あんまり自分を責めないで。仕事が早くできるかどうかって才能で決まったりするし、祐介君は大器晩成型なんだよっ」
「そうかなぁ、」
「そうだよ! だからもうちょっと頑張ろう! 辞めたいとか、そんなのはダメだからねっ」
さり気なく言うタイミングを計っていたのだが風香が先回って僕の言葉を遮った。
やっぱり僕の悲壮感から、辞めたいという本音まで漏れ出ているのかな。辞めないで、と言われると辞めにくいんだよなぁ。
「うーん、」
僕は逡巡する。
いや、正確には考えるフリをしていた。
風香なり聖澤先輩からエールを貰いたくてそのキッカケを作ろうとしただけだ。
一瞬とは言え、風香に引き止められてやる気が出たのだ。だから後押ししてくれるエールが欲しかった。
そして。
「ファイト!」
「頑張ろう!」
二人は溌剌な声で僕の背中を押してくれた。
最初のコメントを投稿しよう!