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§
「やってしまった、」
ピピピ、という軽快な音が警告を促しているようだった。
脇に挟んだ体温計を抜き取ると三十八度と計測されていた。
端的に風邪だ。
まさか、体調を崩すなんて。
最近忙しかったからなぁ。
だからこそ体調管理をしっかりしなきゃいけなかったのだが。それに皆にも気をつけろと言われていたのに結局こういう結果になったのだから本当に申し訳ない。
とにかく。こんな体調では学校には行けないので電話を入れて休むことにした。
§
ふと、僕は目が覚めた。
朝から寝たきりで起きた瞬間、頭がガンガン響いた。クラクラするし熱いし喉が渇いた。
パジャマも汗でぐっしょりだ。
気持ち悪い。
重たい身体に鞭打って僕はベッドから降り、キッチンへと向かう。
摺り足で歩いていると小さな出っ張りに当たってしまい、苦痛に悶える。しかも派手に動くとまた頭が響いて痛いいたい。
病人が一人で動くのは本当辛い。
この時だけは一人暮らしを恨んだ。
何とか冷蔵庫に辿り着き、水を取り出そうとして、絶望した。
「な、い」
水が無い。おろか、飲食するものは一切あらず使いかけのソースや醤油、バターといった単体では何の意味も成さないものばかりが入っていた。
唯一、冷蔵庫の冷気が気持ち良いくらいで本当に絶望だ。涙が出そう。
こうなれば仕方ない。
蛇口を捻って水道水を飲むほか無い。
あんまら身体に良く無いというけれど、無いよりはずっとマシだ。
砂漠の真ん中に立たされたみたいに僕はオアシスを求めて歩き出す。
その瞬間。
ピンーポーン。
軽快な音が部屋に響いた。
滅多に来ない来訪者に僕は首をかしげる(実際は頭が痛いので内心で)。
来るとしても回覧板か宗教なので放っておこうかと思ったのだが扉の向こうから何やら話し声が聞こえる。
「寝てるのかなぁ」
「だとしたら起こしちゃいけないわね。帰りましょうか」
この声は、風香と聖澤先輩?
もしかしてお見舞い?
訪問者が誰か分かって僕は扉を開けた。
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