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たった一人の、それも一年数ヶ月程度しか在籍していなかった生徒が姿を消した程度で学園がここまで…?
予想だにしていなかった倉科からの情報に、その話を聞いた当時も、そして本人を目の前にした今も、私はその話が俄に信じ難かった。
「その彼というのは…?」
「彼の名前は音尾 九十雲。それまで怠惰に生きることしかしてこなかっただけの僕の全てを変えた、素晴らしい人ですよ…僕は当時、僕自身を変えた彼を心から崇拝していたが故に彼の親衛隊隊長を務めていましたから」
無表情を決め込んでいた倉科がその一瞬だけ、ふ、と表情を緩めたのを私は見逃さなかった。恐らく倉科本人も、その場に居ぬ彼を思うことで感情が動かされた自覚はあるのだろうし、そしてその感覚を嫌うことなく、寧ろ心地良いとすら思っているのだろう。
…そう、あの時倉科からその話を聞いてから。
姿見えぬ、私の中ではすっかり雲のような存在になっていた音尾 九十雲に興味を持つようになったのだ。学園の要と言っても過言ではなかった彼。
彼は一体、どのような存在なのか。どういった人間なのか。
私はただ純粋に知りたかった。そしてその彼が私の目の前に居るのだ…このチャンスを逃すなんて馬鹿な真似をする訳がないだろう?
「あの二人を有害だと判断したのなら殺せ。
…音尾九十雲は、僕の標的(ターゲット)だ」
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