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朝、いつものように九十雲さんは自分自身の用意を完璧に済ませてから俺の部屋を訪ねてきた。何故世話をされる側の人物である彼側から部屋に来てもらってるのかというと、衣服や己の風貌に一切関心のない俺を見兼ねた九十雲さんが毎朝態々俺の服を見繕っているからだ。
渡された服を着て頭をされるがままに弄られていると、いつの間にか終わったのか九十雲さんが向かい合うようにして椅子に腰掛けたままの俺の目の前に立った。
こうして見ると九十雲さんは世界を股に掛けるマフィアのボスには到底見えない程華奢で、人畜無害で優しそうな雰囲気を持っている。否、彼は実際に優しいのだ…故に自分は今こうしてここに居るのだから。
「じゃあリア、華蜜くんたちはともかく…僕がいなくても、剣人と仲良くしろとは言わないけれどせめて協力はしてね?」
「…貴方が、そうしろと言うのならば俺は、」
「ふふ、これは命令じゃなくてお願いなんだよ?リア」
そう言って困った様に微笑んだ九十雲さんは、俺と月詠が易々と修繕することなど出来ない程度には不仲なのを重々承知しているようだ。
俺はあの男を好んでいない。嫌いと言ってもいいだろう。月詠は九十雲さんを自分の理想通りのボスに仕立て上げようとしているが、俺はそれが正しいことだとは思わないしやめるべきだとも思う。
俺はこのままの九十雲さんが好きだ。今の九十雲さんだからこそ、俺は"犬"として遣えていると言っても過言ではないし、彼が非道であったのなら俺は今頃彼と出逢うこともなく死んでいただろう。
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