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「…ちょっと月詠先輩、そろそろ手首離して貰えると有り難いんだけど?」
「ああ、掴んだままだったな。悪い悪い」
然程悪びれもせずに目の前の男…華路の手首を掴んでいた手を離しへらりと笑いかけると、こちらを一瞥し掴んでいた部分を気にしているのか軽く摩り、外で立ち止まったままの華蜜をリアの方をじっと見遣る姿にさてこれからどうしたものかと考える。
校舎案内などただの口約束に過ぎないのは全員が分かり切っていることであり(果たして華蜜が理解しているのかは不明である)、校舎案内など要はしたフリでもしておけばいいものだ。
ならば何故態々二手に別れたかというと、リアにあの喧しい華蜜を押し付け、なによりこの双子を分断させたかったからだ。
弟の華蜜は見た通りのまま単純だ。あの性格は演技でも何でもないし、普段からよく喚くのだと聞く。喧嘩馬鹿で抗争では指揮を執る役を担っている華路なしではまるで役に立たないらしい…が、その指示があると朱石の組の中でも群を抜いて強いのだという。
一方こっちの華路は根っからの頭脳派で、仮に今この場で急に殴り合ったとして、こちらが素手というハンデを背負ったとしても瞬殺する自信がある。体術のセンスは全くないようで、運動神経も悪く体力も人並みにしかつかなかったらしい。現状この距離を軽く走っただけで早くも疲労しているのが見て取れる。
それが華蜜ただ一人が介入するだけで俺だけでは太刀打ち出来ない上に、連携の図れないリアと息が合わずあっという間に伸されるのが予測できる。
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