*参

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きっと華路のこんな表情を見たら、こんな一面を知ってしまったら九十雲はこいつを殺せなくなるんだろう。世界を股に掛けるマフィアのボスといえどまだあいつは子供で…そんでもって、そこらでのうのうと生きているどんな人間よりも優しい奴だから。 そんなボスである九十雲は、そもそも殺しを伴った任務に出ることは殆どといっていいほどない。各組織のトップのみを集めた会合、大企業や国家が集う社交界など"ボス"であるあいつが必要な任務にしか出ることはないのである。 だからか、九十雲が自ら手を掛けるのは決まって残忍な…社会の屑にもならないような奴等ばかりだ。そんな九十雲は華路みたいな奴や…向井春陽とかいったか、あいつみたいな奴を殺めることが出来ない。そいつ自身が自らの手で罪を重ねていないと、どうにも非情になりきれない。 そしてその為に俺が存在している。あいつが殺せない奴は、俺が代わりに殺す。ファミリーの奴らでも、あの駄犬でも翼砂さんでもない。秘書であり、幼馴染みである俺が…誰よりも九十雲を理解している俺こそが、あいつの代わりになる。 そして俺は音もなく懐から取り出した鋭利物を、暢気に前を歩く華路目掛けて躊躇いなく投げた。 *
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