*参

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一見ただの恋人同士にしか見えないであろう、違和感もなく手を繋いだまま店を出た僕たちは、その足で緩やかな人混みで微かに賑わう公園内の遊歩道を歩いていた。週末のこの時間は幼い子供連れの家族が殆どで、幼い頃、あの母親とお兄ちゃんと自宅の庭で花冠を作って遊んだ記憶が脳裏を仄かに過り思わず顔を顰める。 「九十雲?どうかしましたか?もしや体調でも、」 「え?ううん、なんでも…ただ、小さい頃に僕もこうやって家族で遊んだなって。涙くんは、そういう記憶、あったりする?」 「家族では特に…母も家を出て行ったきりで、父はそういったことをするような人でもなかったので。ですが華路や華蜜とはよくくだらない遊びをしては怒られたものです」 当時を思い出してかくすくすと笑う涙くんは、一瞬家族の話を振って失敗したかと思ったが特に気にした様子もなく、幼少期に三人でよくやったという遊びの話を聞かせてくれる。 そっか、涙くんもお母さん、いないんだ。まあ調べた限りでは碌でもないあの男…涙くんの父親が権力にものを云わせてそこら辺から攫ってきた一般家庭の女性だったって話だし、出て行ったのも当然といえば当然だ。腹を痛めて産んだ我が子とはいえ自分を誘拐して無理矢理孕ませるような男の血を継いだ涙くんを置いて消えたのにも頷ける。 ある程度歩き続けてから丁度空いていたベンチに腰掛け、タイミングを見計らって立ち上がる。 「ごめん涙くん、僕ちょっと御手洗い行ってくるからここで待ってて貰ってもいい?」 「ですが一人では…私も一緒に、」 「でもほら、僕この格好だし入るのは男性用じゃないから…」 「あ…そうです、ね。大人しく待ってます」 手を離し愛想よく笑いかければ一瞬躊躇われたが、生憎この格好をしていう僕が入るのは男性用ではなく女性用だ。流石の涙くんも女性用御手洗い付近で僕を待つのには遠慮してくれるようだで、優しく微笑み返してくれたのでくるりとスカートを翻し先程ここまで歩いてくる途中に見掛けた御手洗いへと足を進める。 ある程度まで歩いたところで立ち止まり、涙くんの視界に入らない所まで来たことを確認して方向転換し、今来た道とも元来た道とも違う舗装されていない芝生の上をざくざくとヒールで踏みつけながら進む。先程この公園に入る前に起動させた機械が正常に作動していることを横目でチェックし、鞄から取り出したモノを組み立てていく。 …剣人はなんだかんだ手が早いし今頃華路くんたちのどちらかには手をかけているはず。となるとリアも手を出してることになる。そうすると僕も早いところ、なるべく学園に戻る前に涙くんをどうにかしなきゃならない。この公園内にある全ての監視カメラは切っておいたし、涙くんの座っているベンチの付近には人がいないことは確認済みだ。 僕個人としては恨みはないけど、ごめんね? 今日一日、とっても楽しかったよ。まるでただの18歳になった気分だった。誰かと二人で買い物したのなんてはじめてだった…これがきっと、最初で最後なんだろうな。 ばいばい、涙くん。 組み立て終えたサイレンサー付きの銃を真っ直ぐと構え、トリガーに指をかけた。
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