骸探しの静か

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 それが嬉しくて、彼と別れた後、私はついその喜びを仲間達に言ってしまった。  彼女達の反応は、意外にも冷たかった。  あれ? 彼女達って友達……じゃ、無かったっけ?  バカな私は、その時気付くことが出来なかった。  彼と私が会話をしてから僅か三日後、彼からの第一声は、あまりにも冷たかった。 「お前、同僚の悪口言いまくってるらしいじゃないか。悪いけど、悪口ばっかり言う女は嫌いでね」  彼は、「それじゃあ」と、私を見下すように言って、そのまま去って行った。  見知らぬ顔で通り過ぎていく社員達の隙間で、呆然と立ち尽くしていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。  振り返ると、そこには思いを共有していたはずの人達がいた。  仲間や、友達と呼んでいたはずの彼女達が。  大学を止めてからの人達との関係は、自然消滅だったから、あまり気にしていなかった。  いいや、しないように出来た。  でも、今回は、あまりにも直接的だった。  耳で、目で。  第六感で、感じ取ってしまった。  それは私にとって、かなりの衝撃だったらしい。  職場から逃げるように退職すると、私は実家にも帰らず、森の中をさまよっていた。  道中、兎や鹿など、様々な動物の骸を見てきた。  本当は、私自身そんな骸の一つになるつもりだった。  けれど、それらを見ているうちに、私は彼等に声をかけるようになっていた。 「貴方達、寒く無い?」  彼等から、言葉は帰って来ない。  それは当然のことなのだけれど、私には嬉しくて仕方が無かった。 「ねぇ、寂しいでしょう」  やはり、返事はされない。  けれど、それがとても嬉しかった。  泥に塗れた骸を抱き寄せると、私は涙を流していた。  それからと言うものの、私はこの森へと骸を探しにやって来るのが習慣となっていた。  そして、返事をしない彼ら達と一方的に話し合い、自己満足する日々。  今日も、何時もと同じように彼等に話をしていた。  以前、職場に勤めていた頃の、私のことを。 「私は、誰かを批判することで、自分はマシだと思っていたの。それも、この批判を本人のするわけでもなく、他人と共有していた。それはきっと、彼女のことを妬んでいたからだと思うの。自分の好きなことで素直に話が出来て、友達もたくさん出来た彼女に。最低ね、私」  兎の骸に群がる虫をシッシと追い払って言う。
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