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「前に言った男の人のことだけれど、勿論顔がかっこいいし、爽やかで優しそうだって思ったのよ。でもね、全部、目から見える情報と、頭に思い描いていたイメージだった。それに、もし彼と仲良くなれたら、彼女より優位になれるかも。とか、みんなにちやほやされるかも。なんてことも思ったはずなの。私は、今までずっとそうだったの」
そう。
今までもずっと。
有名になりたくて、みんなに愛されたくて、私はつい見栄を張ったり、誰かの力にすがりつこうとした。
それが上手くいかないと、毒づいた言葉で攻撃したりした。
なんて、最低な人間なのだろう。
なんて、今更思ったところで遅いのよ。
なんて、ね。
思っていたのはとうの昔から。
幾ら思っても、このねじ曲がった性格を直すことの出来なかった自分。
私はとても罪深い。
だからかしら。
こうして、良いも悪いも言わない彼等と、つじつまの合わない話を続けたがるのは。
「おや、ソイツは酷い話だねぇ」
骸達の向こうから、男の声が聞こえてきた。
答えが返って来ると思って無かったから、心臓がドクンと跳ねた。
撥ねた、の方が近いかしら。
まさか、骸が話しているわけではないでしょう? 声の聞こえた上の方を見る。
話していたのは、紛れもなく、生きた人間の男だった。
人間の男は、黒い着物を着て、笠を被っていた。
この格好からして、お坊さんのようだけれど、それにしてはちょっと口が悪いかもしれない。
「常に自分が一番で、他人がちょっと良いことあったら悪口言って拗ねるのかい? まるでガキのようだ」
返す言葉が無かった。
これじゃあ、私が骸みたい。
「お前の人生が幾ら数奇な物であったとしても、隣の芝生の、青いところだけを見てやっかむのはいけないことだ。どうしてか分かるか?」
小さく、首を振った。
「そりゃあな、否定したお前さんの芝生が、徐々に黒くなっちまうからだ」
その通りかもしれない。
お坊さんの言葉が、胸に突き刺さった。
他人を悪く言って、良いことなんて一つも無かった。
一時スカッとして、気持ちよくなるけれど、その後あんなこと言ってよかったのかなって、自己嫌悪をし始める。
まるで、お酒を飲んだあとのような頭の痛さ。
「お前が相手を悪く言えば言う程、お前さんが悪い人間だと思われちまうんだ。実際、悪いけどな」
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