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「では、やはり戦いもしましたか?」
「ああ」
「その名称は?」
「む?」
そうだった。名称など、この時決まっている確証もない。愚問だったな。
「申し訳無い。何でも無い」
「名もなき者、話は後で聞く。そろそろ出陣せねばならぬのだ。我が刀を返してはもらえぬだろうか」
「ああ、長いこと申し訳ない。では、是非次は詳しいお話を」
通信を切ろうとした時、疑いたくなるような声が聞こえた。
「山田さーん、まだ出られませんかー?」
聞き覚えの無い若い男の声の後、手で機械を覆い隠したのか、少々音が聞こえづらくなる。私は耳を澄ませて話を聞いた。
「待ってくれ。俺も突然のことで詳しく分からないが、ここにあった芝居用の刀が無くなっていてな。その代わりにこの携帯のような機械があって、知らない男の声が聞こえてきたんだよ」
「何言ってるんですか、刀無くしたの? だったら代わりのヤツとりあえず使って下さい。行きますよ、舞台」
言葉を失った。機械の電源も相手から切られ、私はその場に立ち尽くしていた。あの実験は、失敗だったのか。あまりにもショッキングな出来事で、等価交換が成功した事実が色あせる。くそ、また失敗なのか。愕然として、地面に跪く。
……こうなれば決めたぞ。私は、絶対に本物の近藤勇と話してみせると。
機械を持ち、机に座ったところへ、機械から突然声が聞こえてきた。
「だ、誰か! 誰かおらぬか!!」
白々しい芝居だな。刀か? 返してやるものか。どうせ替えがあるのだろう。自腹でもう一本くらい買えば良い。機械の電源を切った。
後に私は知ることになる。あの電話の相手が、タイムマシンを製作した私のひ孫によって、こちらの世界へと来ていた近藤勇だったのだと。
(完)
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