14人が本棚に入れています
本棚に追加
絵に描いたようなカタコトさだ。それはさておき、彼と私のスイスロール一カ月分を狙う意図は違ったらしい。それもそうか、彼は彼で自身の生活がかかっている。少ない生活費を切り崩すばかりでは、好きな食べ物も食べられないのだろう。仮に彼がプレゼント券を貰った時は、素直に手を叩いてやろう。
二百人全員が店内に入ると、目の前にあるステージに、肥満気味の男が登ってきた。あーあーとマイクテストをすると、男はマイクを握って話し始める。
「諸君。この度は満員御礼になったことを、誠に感謝しておる」
そんな話はどうでも良い。だから、さっさとプレゼント券を争奪させてほしい。俺の感情とは裏腹に、男は長々と話を続ける。
「……であるからして、我が店舗は豪華絢爛な道を進むこととなった。さて、今回はそれに伴って、君達にもその幸せをおすそ分けしたいと思う」
今まで男の話に退屈していた会場が、急に賑わい出した。流石はスイスロールだ。こんな醜い男でさえも、簡単に英雄にしてしまう。
「では、早速始めよう。この券の争奪戦を!」
男が天に掲げた薄っぺらい紙。それを狙って、俺達はこれから熱い戦いを始める。見ていろお前等、この為に俺が今までどれ程の努力をしてきたのか。
――
まずは、百メートル走だ。6人が並び、そこで一位になった者が生き残る。単純なルールだ。こんなもの楽勝だ。何故ならば、俺はこれの為に1年かけて多くの特訓をしてきたからだ。ジムでのトレーニングはもちろんのこと、山、そして時に壁を登ったりもした。ここに来ているということは、彼等もそれなりに自信があるのだろう。そうこなくてはな、それだからこそ熱くなる。
「位置について、よーい」
最初のコメントを投稿しよう!