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桂の指は、しばらく入り口の辺りをほぐしながら、そのうちゆっくりと中に押し入ってくる。異物感に目を閉じると、勝手に涙がこぼれた。痛みでも嫌悪でもないのに、これは何なのだろう。
怖い、と思った。
これで自分は自分でなくなるのかと思うと、怖くてたまらない。でも、もう、止めろとは言わなかった。
「も、いいか」
首を横にふったけれど、桂が聞くわけがないのも、分かっている。そのまま、指とは比べ物にならない異物感が身体中を貫いて、圧迫感に息がとまる。痛いというより、ひたすらに苦しかった。
すぐに桂が体を揺らし始め、悲鳴が喉元まで溢れた。けれど、その先へ出てこない。空気と一緒に、声まで喉に詰まっているようで、苦しさが余計に増して行く。
「苦しいか?」
首を縦に振ると、腰を掴んでいた桂の手が、そっと秋吉の頭を撫でる。柔らかく髪をすくくせに、抜き差しは止まらないのが憎らしい。
「俺は最低だな」
髪を撫でていた指先が、耳を柔らかく揉む。
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