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秋吉にとっては、このくらいの事は日常だ。もともと、思った事はすぐ口にしてしまう性格で、踏まなくていい地雷も踏んでいると形容されるほどなのだ。
ホールスタッフにもずばすば言うから、バイトはなかなか続かない。今残っている由比と真中はなかなかのツワモノといえる。きっと彼らから見れば、秋吉さんまたやってる、くらいのものだ。
しかし、初対面の、料理教室とは名ばかりで、遊びに来ている女性が相手ではそうもいかないらしい。女の連帯感とは恐ろしいもので、さっきまで秋吉に好意的だった女性生徒達も一様に罵声を上げ始める。
もはやテレビ撮影どころでもない。
「あー、うっせえな、くだらねえ! だいたい、その爪が変だってのは本当の事だろ!」
秋吉が作業台を叩いて吐き出したから、事態は余計に悪化した。
はやくオーナー戻って来ないかな。
オーナーに怒られるのも、こんな醜態を見せるのも嫌ではあるが、自分で事態を収拾できるとも思えない。群がってくる女性の波にもう一度怒鳴ろうと拳を握りしめた時だった。
「まあまあ、落ち着きませんか。せっかくのネイルも台無しだ」
勇敢にも、秋吉と女達の群れに割って入った顔がある。一瞬、オーナーかと気を緩めた秋吉だったが、向けられた笑顔を確認して、うえ、と声が出てしまった。
助かったと思ったのに、嫌なやつが来た。
秋吉はこの男が苦手でたまらないのだ。
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