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―――――― !
「だまれええええっ!」
千朗は叫んだ。目を閉じて叫んだ。
目を開けていれば見てしまうから。今まで人間だったものが血まみれの肉塊になってしまうところを。
バシャツ!
全身に熱い液体がかかった。
周りで悲鳴がさく裂した。目を開けると視界が真っ赤だった。
「あ………」
悲鳴はまだ続いている。
見回すと大勢の人間がこっち見てて叫んでいた。
刑事はもう目の前にいない。
わかっている、彼は足もとにいるのだ。小さくなって、平たくなって。
千朗はそれを見ずに反転して走り出しか。
わあっと人々が叫んで逃げ出してゆく。
(俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺のせいじゃないっ)
心の中で叫びながら千朗は走った。
(あいつが悪いんだ、あいつが悪いんだ、信じないって言ったくせに!)
体中がべたべたして気持ちが悪かった。早くこの赤いものを落としたい。
―――汗を拭きなさい―――
刑事はハンカチを差し出してくれた。でももう使えない。
古びたハンカチ。ずっと刑事と一緒にいただろう、それ。
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