第20章

9/10
前へ
/22ページ
次へ
 ―――――― ! 「だまれええええっ!」  千朗は叫んだ。目を閉じて叫んだ。 目を開けていれば見てしまうから。今まで人間だったものが血まみれの肉塊になってしまうところを。  バシャツ!  全身に熱い液体がかかった。  周りで悲鳴がさく裂した。目を開けると視界が真っ赤だった。 「あ………」  悲鳴はまだ続いている。 見回すと大勢の人間がこっち見てて叫んでいた。 刑事はもう目の前にいない。 わかっている、彼は足もとにいるのだ。小さくなって、平たくなって。  千朗はそれを見ずに反転して走り出しか。  わあっと人々が叫んで逃げ出してゆく。 (俺のせいじゃない、俺のせいじゃない、俺のせいじゃないっ)  心の中で叫びながら千朗は走った。 (あいつが悪いんだ、あいつが悪いんだ、信じないって言ったくせに!)  体中がべたべたして気持ちが悪かった。早くこの赤いものを落としたい。  ―――汗を拭きなさい―――  刑事はハンカチを差し出してくれた。でももう使えない。 古びたハンカチ。ずっと刑事と一緒にいただろう、それ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加