16  もぉ、ドッキドキ!

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16  もぉ、ドッキドキ!

まさか、たった三週間足らずで、 再び、彼女と一緒に実家を訪れることになろうとは思いもしなかった。 いや、それを言うなら、その短い間でこんなにも急速に事が進んで、 婚約まで至るとは夢にも思わなかった。 しかし現に俺たちは、十月半ばの週末に、 二人で一緒に来た記憶にも新しい駅舎の前に再び立っている。 確かに、彼女の両親に結婚の承諾を貰いに行くわけではないので、 極度の緊張感はなかった。 だが、それでも結婚の報告の前に 家族の誰かと顔を合わせるのも気恥ずかしい。 だからこの日の迎えは、あらかじめ断っておいた。 そして今回は、事前対策も万全。 前回の失敗を踏まえて「大事な話と報告」がある旨を前もって連絡し、 先走らないように釘を刺した。 だから、この前のように騒動にも暴走にもならずに済むはず。 それでも、この故郷の駅舎を背景にした俺は、 心のどこかに、漠然とした不安を抱えずにはいられなかった。
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