「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

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「ご、ごめんなさい!」  少女は犬小屋からも去ると、住宅街から抜け出しました。  … … …  誰かを頼ることもできず、金も食料も無い。少女はマッチを売るしかありません。 「こ、これ……どうぞ……! どうぞ、お願いします! コレ、買って下さい!!」  時折少女に同情して買ってくれる者もいましたが、大半は無視、酷い人となると、「くれるならまだしも、こんなモノ買うか!!」と理不尽に怒鳴る人もいました。少女の心は、もうボロボロでした。それでも、マッチを売るしかありませんでした。  翌朝、少女は中身が三分の二程になった段ボール箱を持って魔女の家へと帰りました。この量では、きっと怒られてしまうでしょう。そう思った少女でしたが、魔女の元へ向かわないと、食事を貰うことすら出来ません。 「おや、これだけかい? 全く駄目な子だねぇ。それじゃあ、これを犬と半分こするんだね」  売り上げを取りあげられると、拳程の大きさの焼かれた肉を二つ渡されました。犬と半分こ? あの犬はただの魔女のペットなのに、どうして私の売り上げを彼に渡さなくちゃいけないの? そう言い返したかったものの、魔女は魔法で少し減っていたマッチ箱を段ボールにパンパンに詰めると、すぐさま中へと戻って行ってしまいました。扉を開けようとノブを動かすも、もう内鍵をかけられていました。  マッチの売り上げが、こんな焼いた肉の塊二つなんて。少女は悔しく思いましたが、肉の塊をかじりました。肉汁がじゅわっと広がり、美味しい。少女は一時の幸福感に包まれましたが、隣のシンデレラの家から幸せそうな声が聞こえてきました。少女は木と木の間から隣を覗きました。シンデレラは、会社へ向かおうとする王子様のネクタイをキュッと締め、見送って行きました。幸せそうで、理想的な家庭です。  羨ましく思い、少女は唇を小さく噛みながら、残りの肉の塊をがっつきました。手は油まみれです。もう片方にある肉も食べたかったのですが、あの意地悪な魔女のことです。犬にこの後食べ物を渡すことも無いのでしょう。あの犬には罪はありません。仕方なく犬の元へと肉を置きました。犬は少女を警戒してか始めのうちは近寄りませんでしたが、一歩少女が距離を取ると、肉に口を付け、パクリと食べてしまいました。少女の口から、思わずよだれが垂れました。
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