「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

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 よく見ると、犬は泥で汚れており、体もやせ細っています。少々可哀想でした。せめて、体だけでも洗ってあげたいな。庭に埋めてあった鉄の柱に、リードが巻きつけてありました。これでは犬も身動きがとれません。少女はそれを外すと、リードを持ちました。犬はジッと少女を見てその場を動こうとしませんでしたが、少女の優しい瞳に気付くと、犬は黙って歩き出しました。 「有難う」  少女が言うと、犬は静かに目を閉じ、小さく頷いた。  犬を、庭の水道の前まで連れて行き、蛇口をひねると、まずは自分の油まみれになった手を洗い、その後犬の汚れた体を洗いました。出来ることなら温かいお湯で洗ってあげたかった少女ですが、魔女に頼む勇気はありませんし、きっと頼んでもお湯を持ってきてはくれないでしょう。冷水で犬の体を洗い終えると、犬はブルブルと全身を振るい、水を弾き飛ばしました。飛んでいった水は少女へとかかり、少女は、「きゃっ!」と可愛らしい声を上げました。犬は少女の方を振り返ると、少女にかかった水をペロリと舐めました。その行動は、犬が少女を信頼した証でした。少女は喜ぶと、犬を抱きしめました。  今日の仕事には、犬を同伴しました。一人じゃ無いことがこれ程心強いなんて。少女の声も、昨日より力強いです。黒い犬の第一印象はとても怖いですが、犬好きそうな客や、優しそうな客には目を丸くし、甘えるように鳴き声を出します。犬に興味を持った客が寄ってくると、くぅんと鳴き声を上げ、少女は押しの一手を言いました。 「宜しければ、マッチを買ってくれませんか?」  少女や犬に必死な表情で訴えられ、買わない人間などいませんでした。  … … …  深夜、少女の持っていた段ボールの中には、マッチが無い代わりに沢山のお金が入っていました。犬の愛らしさや、少女の必死さから、おつりは要らないと言ってくれる客も数人いました。犬を連れて帰る少女はご機嫌です。何せ、これを持ち帰れば一軒家が待っているのですから。 「ね、家を貰ったら、貴方も一緒に住みましょうね」  少女の言葉に、犬は嬉しそうに、きゃんっ! と鳴きました。  ですが、その道中のこと。少女は犬を連れて歩いていると、とある男の人に声を掛けられました。少女同様、身なりの汚い男の人でした。 「何でしょう?」
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