「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

5/10

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 少女が振り返った瞬間、男の人は少女の手を引き、少女を強引にワンボックスの車の中へと連れ込みました。犬は男の人の足に噛みつきましたが、男の人は足を必死に振ると、犬を引っぺがして車の中へと入りました。犬はキャンキャン吠えましたが、車は空しく犬から離れて行きます。犬はその足で追ってもみましたが、車のスピードには勝てません。 「くぅん……」  丸くなったその背中は、とても悲しそうでありました。  しかし、犬は決心すると、車の消えて行った方向とは正反対の道を走って行きました。  … … …  犬から逃げ、車が止まると、男の人は少女へと手を伸ばしました。少女は必死に抵抗します。嫌だ嫌だと泣き叫ぶ少女の口を、男の人は再度手で塞ぎました。それでも少女は、体を必死に動かし、抵抗しました。でも、男の人の力には勝てません。男の人に頬を叩かれ、怯んだ瞬間両手を掴まれました。誰か助けて! 少女は目をギュッと閉じ、涙を流しながら願いました。  その時でした。 「バウッ! バウバウバウッ!!」  その鳴き声は間違いなく、魔女の家の犬小屋にいた黒い犬の声でした。その声を皮切りに、ワンボックスの車がかぼちゃの馬車に変わりました。突然のことに男の人が動揺していると、今度は男の人の服が真っ白なスーツに変わり、ボサボサだった髪も綺麗に整えられました。少女の格好は、純白のドレスに、足元にはガラスの靴。これはまるで、シンデレラのようでありました。 「どう言うことなの……?」  少女も男の人も驚いていると、場所の隣には、あのイジワル魔女がいました。魔女は馬車の中へと入ると、男の人の頭を小突きました。 「アンタ、何てことしているんだい。これじゃあまるで、この子を襲おうとしているみたいじゃないか」  え、襲うおうとしていたんじゃないの? と言いたげに少女は男の人を見ます。男の人は、「そんなわけ無いだろう!!」と顔を赤らめると、少女をちらちらと見ました。 「情けない。こっちはお前の為に一肌脱いでやったと言うのに。マッチ、うちのバカ息子が悪いことをしたね」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加