「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

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 この人が、魔女の息子? 少女は意味が分かりませんでしたが、男の人や魔女の様子は、真剣そのものでした。確かに、薄緑色の瞳はそっくりです。けれど、どうして魔女の息子がこんな怪しまれるような行動に出たのでしょう? 少女には分かりません。そんな少女に、魔女は説明をしました。 「うちの息子はね、アンタのことが前から好きだったんだと。可愛らしい目、健気な姿、華奢な声がね。だが、私としては、物事を最後までやり通せないような子を嫁に迎えるのは嫌だと思ってね。一軒家を持つことに、マッチを売り切るって言う条件を付けたのさ。マッチを売り切ったら、マッチは一軒家を持つ。コイツと一緒にね」 「え……」 「さ、行くよ」  魔女の鞭打ちによって馬が走り、馬車は住宅街へと進んで行きました。黒い犬は置き去りです。寂しそうにくぅんと鳴くと、自力で馬車を追いかけ始めました。  … … …  住宅街へ着くと、もう既に家は完成していました。魔女の隣にあった空き地は、広すぎる程大きな豪邸に。シンデレラ達の家など比べ物になりません。少女は家の中に入り、目を輝かせます。キラキラとしたシャンデリアに、美しいタンス、大きなテレビもあります。美しいものと新しいものばかりの部屋。少女はシンデレラの姿を思い浮かべ、優越感に浸りました。幸せそうに家の中を見る少女を見て、魔女とその息子は、お互い顔を見合わせ、ニヤリと笑いました。  … … …  少女と息子の結婚は一週間もしないうちに行われました。式にはシンデレラ夫妻だけではなく、沢山の童話の人物達が来て、盛大なものとなりました。幸せそうな新婚の姿に、皆羨ましそうな視線を送っており、少女はその視線が気持ちよくてたまりませんでした。この幸せな時間は、始まったばかり。そう、少女は思っておりましたが、それは長くは続きませんでした。  魔女の息子が変わったのは、結婚してから数日後のことでした。  常々の会社勤めでいらいらとしており、そのいらいらを少女へとぶつけるのです。どうやら、同じ会社に勤めているシンデレラの旦那である王子に、業績で負けているそうなのです。会社から帰って来る度に、息子が少女へ手を上げる回数は増えて行きました。挙句の果てには、少女に、「こんなことなら、シンデレラと結婚すれば良かった」と言ったのです。少女のプライドは、簡単にへし折られてしまいました。
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