「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

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 少女が泣きながら家を出ると、息子は、「テメーは犬小屋にでも暮らしてろ!」と罵声を浴びせ、扉を閉めてしまいました。少女はもう振り返りません。アイツの言う通り暮らしてやりますよ、あの犬小屋で。少女は約一週間ぶりに、犬に会いに行きました。  魔女の敷地内にこっそりと入り、犬小屋へと向かう。犬を撫でようと犬の顔を見たその時、少女は驚愕しました。  犬はやせ細り、毛はとても汚れていたのです。それは、出会った時以上のものでありました。 「くぅん」  犬は弱々しく微笑んで鳴きます。その姿があまりにも儚げで、健気で、少女は犬を抱きしめて泣いていました。今までだって、こんなことは無かったのにどうして。その時、ふと息子と魔女の電話の会話を思い出しました。  あの時息子は、「え、アイツお母さんに噛みついてきたの? そんなヤツ殺しちゃえよ」と言っていました。イジワルな魔女のことです。簡単に殺さないよう、じわじわと体力を奪おうと思ったのでしょう。こんな場所にいては駄目だと、少女は犬を抱えて走って行きました。向かった場所は、今まで一度も入ることが出来なかった。……いいえ、入ろうとしなかった、シンデレラの家です。ここには、自分には無いものが沢山ありました。愛、幸せ、優しさ……。それをまじまじと見せつけられるのが怖くて、少女は避けて来ていました。ですが、今はそれどころではありません。 「助けて下さい!!」  黒い犬を抱えて泣きついてきた少女に、シンデレラと王子は驚いて顔を見合わせました。  … … …  事情を聞いたシンデレラと王子は、少女や犬に同情しました。 「もっと早く言ってくれれば良かったのに」  シンデレラの言葉は尤もでした。けれど、少女には出来ませんでした。もし馬鹿にされたら、見下されたら。シンデレラがそんな人間では無いと分かっていても、疑いを完全に拭うことは出来ませんでした。シンデレラもそれを察したのでしょう。それ以上突き詰めては言わず、少女を優しく抱きしめました。温かいぬくもりからは、母性を感じました。 「ちょっと待っていてね。昔の知り合いなんだけど、強力な助っ人になるはずだから」  シンデレラはウインクをし、その助っ人へと電話をかけました。
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