「マッチ、ただしテメーは犬小屋だ」

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 少女がいなくなった夜、魔女は鬼のような形相で、「どこだぁ。どこだぁ」と住宅街を徘徊して回ります。その後ろには、魔女同様の形相をした息子がいます。二人が探すのは、勿論少女のことでありました。  そんな魔女と息子の近くに忍びよる影があった。その影が、「えいやっ!」とステッキを振ると、魔女と息子の足元にあったマッチが火柱を立て、二人は、「あっちっち!!」と声を上げて後ずさりました。  すると、足元にあった黒い犬のフンを踏んでしまい、二人は滑って転んでしまいました。あまりにも二人が臭いと叫ぶので、今度はその影は、「そんなに臭いなら洗っておやり!」とステッキを魔女の庭の蛇口に振りました。蛇口が魔女達の目の前まで伸びると、そこから痛い程強い勢いで水が噴射し、魔女達は呼吸が苦しくなりました。自ら慌てて逃げると、最後だと言わんばかりに、二人の真上から、マッチ売りの少女、シンデレラ、王子、黒い犬が落っこち、二人を全員で踏みつけました。その様は、まるで猿を退治するカニと頼もしい仲間達のようでした。 「どう、そろそろ懲りたかしら!?」  シンデレラが言うと、魔女とその息子は必死に首を縦に振りました。それを見て、影だけを現わしていたもう一人の、真っ白な衣に身を包んだ魔女が現れました。彼女こそ、シンデレラに十二時の魔法をかけたあの魔女です。 「こんな健気な少女をいじめるなんて、同じ魔女としていただけないねぇ。コイツ達にはもう少し痛い目を見てもらうとしましょうか」 白き魔女の言葉に、魔女と息子は身を寄せ合って怯えました。 ですが、そんな二人と魔女の前に、少女が両手を広げて立ちました。 「どうしたの?」  シンデレラが聞きました。少女は広げていた手を太ももで合わせると、そのまま頭を下げました。その行動に、皆は驚きました。 「確かにこの人達は悪い人達です。けれど、この二人がいたから、私は目的を達成することの大切さを知れました。それと、人を妬んではいけないってことや、辛い時は誰かを頼っても良いってことも」
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