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「先生」
他の生徒と笑いながら話していた先生は、私の声に振り向いた。
じゃあね、その子たちに手を振ると、私の方へ来る。
卒業式が終わり、別れを惜しむ人があふれる校庭。
当然うるさいはずなのに、先生の前に立つと自分の心臓の音しか聞こえなくなった。
「これ、受け取ってください」
書いてきた手紙を差し出すと、先生は受け取ってくれた。
もう、それだけで満足。
ずっとずっと、想いを伝えたかっただけだから。
先生は手の中の手紙と、私の顔を見比べている。
「返事は期待していません。
いままで、ありがとうございました」
あたまを下げて立ち去ろうとしたら、手を掴まれた。
先生はそのまま、ごった返す生徒や教師の間を縫って、どんどん歩いて行く。
周囲から何事かと視線が集まるが、先生は気にする気配がない。
黙って校門を出るとやっと先生は立ち止まった。
「……これで、教師と生徒じゃなくなった」
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