妖狐な日々

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―――いったい、どうしてこんなことになったんだろう。 京助は、カチカチに焦げた朝食の目玉焼きを箸の先でつついた。 「お前、料理ぜんぜんダメじゃん」 そして目の前に佇む人物を、ため息まじりに非難してみる。 昨日まではたった一人で朝食を食べていた26歳、しがないサラリーマンの京助に、突如できた同居人だ。 けれど、この状況はまったくちっとも嬉しくない。 泣いていいと言うなら、すぐさま号泣したい気分だった。 「……ごめんなさい」 彼はシュンとし、女の子のような声で言った。 同居人は、昨日までは全く見ず知らずだった、まだ小・中学生くらいにしか見えない小柄な少年だ。 サラサラヘアに顎のほっそりした色白で、目は大きく、琥珀色に澄んでいる。 半袖Tシャツにジーンズ。本当にその辺から浚ってきましたと言う感じの、見た目は可愛らしい少年だ。 事情を知らない人が見たら、こんなあどけない子供をマンションの一室に閉じ込めて、朝っぱらから召使の様にこき使うなんて、一体何を考えてるんだこのド変態め……と非難されかねない状況だが、実際途方に暮れているのは京助の方だった。 「でも大丈夫だよ京助さん。オレ、こう見えてもけっこう呑み込みが早いんだ。すぐにいろいろ勉強して、毎日うまいもん作って食わしてやるから! だから安心して!」 少年はニカッと人懐っこい表情で笑い、髪の間から生えた、三角の茶色い耳を掻く。 更に、シャツの裾からポワンと垂れる、モフモフの亜麻色しっぽをフルンと揺らした。 ―――人間だったら、まだ救いがあった。 ママの所へ帰りなさいと、その奇妙な付属品をくっつけたコスプレ少年を追い払えば済んだ。 けれどどんなにその耳と尻尾を調べても、体温と絶妙な柔らかさを持つそれらモフモフは、ちゃんと血の通った本物だとしか思えなかった。 無理に引っ張ってみてもポロリと取れる事は無く、痛みに堪えて少年が涙目になるだけなのだ。 確かに出会ってすぐにこの少年は、いまだかつてないほど潔く自分の自己紹介をした。 『オレ、狐です! と』 嘘では無いのは認めよう。けれど……。 ―――ああ、何てついてないんだ。ようやく総務の(みやび)ちゃんを初デートに誘えたというのに。 よりによってそのデート前日に、こんな疫病神……いや、キツネに憑りつかれてしまうなんて。      ***
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