妖狐な日々

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この狐に出会ったのは昨夜の9時ごろだ。 自転車で10分のところにあるコンビニエンスストアに、タバコと夜食を買いに出た、その帰りだった。 開拓予定地の雑木林の傍を走っている最中、京介は急に心臓が痛くなり、さらに呼吸まで苦しくなって路肩に自転車を止めた。 このまま死んじゃうのかな。などと真剣に思うほど具合が悪く、地面に転がった途端、意識が朦朧とした。 ―――明日はようやく出来た彼女、(みやび)ちゃんとの初デートだって言うのに。なんて可愛そうな俺。最後までツイてない人生だったな……。 そんなことを思いながら無意識に空に手を伸ばした京助だったが、ふわりとそれを別の小さな手で包み込まれた。 「みやびちゃん?」 思わずそうつぶやいたが、心配そうに京介をのぞき込んでいたのは、まだあどけなさの残る、少年の小さな顔だった。頭に三角の耳をつけている。 「ごめんなさい、オレのせいで! オレが自転車の速さに走れなかったばっかりに! でももう大丈夫。苦しくなくなったでしょ。二度と離れないから!」 まったく意味不明な言葉を叫びながら、狐もどきは大きな瞳を潤ませた。 だが確かにこの少年が近づいた途端、京助の胸の苦しさはすっかり消え去り、気分はすこぶる良くなった。 「ねえ、君はいったい何? ちっともわからないんだけど」 「狐です。名前はカイ。本当にごめんなさい、オレ、さっきトラックに跳ねられて死にそうになって、とっさに傍を通ったお兄さんの魂を半分貰っちゃったんだ。だからお兄さんの魂は半分になっちゃって、オレから離れたら苦しくなるんだ。 オレは人間の魂を半分もらっちゃったから、こんな姿になっちゃったけど、驚かないで。珍しい事じゃないんだ」 ―――いや、充分珍しい。 けれども京助はツッコみそこねた。 「ねえ、お兄さん、名前は?」 こっちには質問させる隙を与えず、耳をぴんと立ててカイは訊いてきた。 「きょ、京助」 「きょきょすけ」 「ちがう、京助」 京助の名を覚えたところでカイは、引き続きその場でいきなり絶望的な発表をした。 「本当は一個だった魂だから、遠く離れてしまえばお互いに苦しくなる。ほら、今みたいに。だからもうオレたちは遠く離れられない。 本当に申し訳ないけど、これからオレはしばらく京助さんのそばで暮らすよ」
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