第13章 わたしには甘すぎる

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…無理だよ…。 奴は深夜の夜道を歩きながらぴったりとわたしに身体を押しつけた。そっと頬ずりしてくる。歩きづらいったらない。 そう言えばこの道を往きは腕を絡めて身体をくっつけて歩いてきたんだっけ。全く、空腹だとどんな脳内物質が出てるんだ、わたし。 「大丈夫、明日久々の休みだろ。チェックアウトは十一時だから、ぎりぎりまで部屋にいよう。充分眠れる時間あるよ。…いや、少し眠ったら明日の朝もちょっとできるかな?…俺、ちゆの身体だったらマジな話、いくらでもいけるかも」 「…いやいやおかしいでしょそんなの…」 わたしは半分げんなりして呟いた。冗談抜きで付き合いきれない。このあと、どんなに身体にやらしいことされてても本当に途中で寝ちゃうかも…。 深夜とは言え道端で、ぐいと引き寄せられて唇を合わせる。やけくそで応えながら、そう言えば密室以外ではいちゃつくなってきつく言い渡されてたなぁ。と頭の端を記憶がよぎるが、もういいや今更。 …それと、ジュンキの前でも止めてね、と何気なく付け足した吉木さんの声が脳内に蘇り、ふと現実に引き戻される。そう言えばそっちの問題もあったか。内心で呻く。…なんか、この先も考えなきゃならない課題が山積み…。 「じゃあ、身体に気をつけて」 新幹線のホームまで竹田を見送る。このまま東京から名古屋まで行って、愛知県の実家まで帰省するのだ。 「家に連れて行きたかったけど。さすがに今回の春休みは無理だな。…次は大阪と、博多だっけ?」 「うん、東京が終わったあと、一週間ずつ」 実家の話が出てちょっと冷やっとするが、何食わぬ顔でスルーする。別に立山くんのご実家で夕飯をご馳走になった、って普通の顔して言えばよかっただけなんだけどね。たまたま劇場の近くなんだから、そんな変な話でもないと思う。まあでも、泊まったことをどう取られるかわかんないし。単に言うタイミングを逸したってこともある。 「名古屋の公演あればよかったのに。そしたら毎日会いに行くのにな」 「仕事になんないよ!」 わたしはマジに安堵した。そんなことにならなくてよかった。冗談でも止めて。 竹田の乗る車両がホームに入ってきた。ぎゅっと抱きしめられ、されるがままに大人しく目を閉じる。まだ発車まで間があるけど。 「じゃあ、立山の野郎によろしくな。ちゆを頼むって」 「それ、あたしが言うのか」 わたしの台詞に奴は苦笑した。
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