第13章 わたしには甘すぎる

13/17

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
立山くんはフルーツ牛乳のパックにストローを挿しながら頷いた。 「そっか、終わって帰る頃はもう新学期とっくに始まっちゃってるもんな」 「うん。…最後の方、学校の舞台もあるからあんまし遊んであげらんなかったし。…タクと一緒にモップの散歩したいなぁ、とか思い始めちゃったら。…今頃、畦道とか土手はたんぽぽとか菫とか土筆がいっぱいかな、って考えてたら、なんかね」 「瀬戸さんにも会いたいしね」 …わたしは反射的に顔を上げ、立山くんを見返した。彼はこっちを見ずに、でも何でもない平然とした顔をしてる。 …そっか、この人、わたしの気持ち知ってるんだ。今まであんまり考えたこともなかったけど。 しかし何でいつの間に気づかれたんだろう。竹田はどう見ても気づいてないのに。 確かに立山くんに対して特にそれを隠そうって意識は最初からなかった、竹田相手と違って。それで普通にわかっちゃったのか。…抜かったな。 「…そりゃ、まあ。瀬戸さんのご飯美味しいし」 「一緒に夕飯の支度がしたいな、と」 「うん。…まあ」 曖昧に頷くと、立山くんはふ、と軽く笑ってずっ、とフルーツ牛乳を一口飲んだ。わたしは持て余すように熱いコーヒーの入った紙コップを持ち直す。 「…冗談だよ、言ってみただけ。…俺もあの辺り、散歩してみたいな。全部終わって向こう帰ったら、タクと三人でモップの散歩しよう。案内してよ、二人で」 「…うん」 慰められたような、意地悪されたような。誤魔化されたような、…試されたような。複雑な気持ちでコーヒーの表面に目線を落とす。 実は昨夜、我慢できなくてつい瀬戸さんにメールを送ってしまった。一応連絡用に、とメアドと携帯の番号ももらっていたけど、今まで本当の用事がある時しか使ったことがなかった。『鯖が安いけど夕飯はそれでいいですか』とか、『車は竹田に返してもらうんでも大丈夫でしょうか』とか。 初めて何の用件もない、雑談みたいなメールを送った。元気ですかとか、まだあんまり役には立てなくてとか、タクとモップに会いたいですとか。返事が来なかったらと思うと怖くてそのあと携帯を見てない。 でも、竹田にも一日一回LINEを送らなきゃいけないし。このあとも全然見ないってわけにもいかないよなぁ…。 「それ、熱いのか。…飲み切らない?」 問いかけに我に返る。気づけばほとんど飲んでないコーヒーのカップを両手で持て余していた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加