第13章 わたしには甘すぎる

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何故か唐突に彼の手が横から伸びてきてカップをわたしの手から受け取った。 「要らないんならもらうよ」 多分結構ぬるくなっていたんだろう。くっ、と一気に飲んでしまいちょっと顔を顰めた。 「…砂糖も入ってるじゃんか。ブラック好きならブラックにしとけばいいのに。自分の好きなもんを選べよ」 そうなんだけどさ。 「立山くんにはミルクと砂糖入っててもレギュラーコーヒーはちょっと苦いんだね、まだ」 「『まだ』って何だ」 「…いや、大人になったらいつか平気になるのかと」 「結構腹立つなぁ」 憤然としたように言い、わたしにフルーツ牛乳のパックを押しつける。 「やる。…お前の、飲んじゃったから。代わり」 いえ飲みかけですよ…。 そう思いかけて、そう言えばわたしってこの人の熱狂的ファンだったっけ。だったらこれってすっごい嬉しいお宝なのか?と思い直して手にとって眺めるけど。 …ただの飲み残しのフルーツ牛乳にしか見えないのは何故なんだろ…。 「要らないんなら返せ」 「いえ頂きます。…一応」 お気持ちはありがたいです。 飲めってことだよね、と思って覚悟を決めてストローを口にする。すごい嫌でもないが特に嬉しいとかもない。別に普通だ。 身体の関係がない男の飲みかけ初めて飲んだ…。 「どうした」 わたしが余程へんな顔をしてたのかもしれない。彼がにこりともせず問いかけてくる。わたしはため息混じりに返答した。 「…いえ。フルーツ牛乳って、久々に飲んだけど。…マジ甘…って、思って」 「…。」 わたしは座席に身体を沈めて茫然としていた。自分のお手伝いした舞台装飾。その中に、本物の、大好きな輝くあのひとがいる…。 思わず両手のひらに強く爪を立てていた。この感激、わくわく感、どうしようもない興奮をどうしていいのかわからない。去年の九月の舞台も三月の時も、思わず息を呑んで見入ってしまったけど。こんな風に客席から、全てを観ることが出来たのは彼の出演作品に関わってから初めての体験だ。 勿論、他の俳優さんや女優さんたちだってすごい。それはわかる。…でも。 彼はどうしてこんなに特別なんだろう…。 『…ちゆちゃん』 気がつくと、幽体離脱しかけたわたしのそばに吉木さんが来ていた。舞台は終わってカーテンコールが鳴り響いている。 『こっち来て。…急いで』 わけがわからないけどぼうっとしたまま、言われる通りにただ移動する。
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