第13章 わたしには甘すぎる

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彼の唇がわたしのそれに触れ、重なり、頭が真っ白になった。もう何も考えらんない。彼の舌が容赦なくわたしの唇を割って入ってくる。背中は壁際に強く押し付けられ、逃げる場所ももうない。わたしは目を閉じて全てを受け入れた。 …すごく激しい。頭の芯がじんじんする。お互い喘ぐように相手を貪り、腕を回してしがみつき合う。身体ががくがくしてとても立っていられない。…ああ。こんなの。…駄目…。 キスだけでいっちゃう…。 身体の奥深くがやばい感じでびくびくし始め、わたしは焦った。本当にこのままは無理。必死で彼の腕から逃れ、唇をもぎ離した。まだきらきらと全身を輝かせている彼から少しでも身を遠ざけようとする。 「…駄目、もう、こんなの。こんな状態でこれ以上されたら。…死んじゃう、わたし」 「そんなことあるか。…大丈夫だから。…ちゆり」 優しく甘い声で名前を呼んで引き寄せようとする。わたしは頭を無茶苦茶に振って更に身を引いた。こっちだって必死だ。 このままここで彼にもう一度触れられたりしたら。…理性がぶっ飛んでこの場でセックスしかねない。 もう既に身体は反応しちゃってる、完璧に。 後退った足許に落ちてた花束にぶつかる。慌ててそれを拾い上げ、彼の胸元に無理やり押しつけた。反射的にそれを受け止めた彼に、後退しながら頭をぺこっと下げる。 「あの、本当に、すごく最高でした。素敵な時間をありがとうございます。あたし、あなたのファンなんです。…本当に」 それだけ言うのが精一杯で、背中を向けて逃げ出した。千百合、と蕩けるような声で更に呼びかけられたが、もう絶対振り向かない。次に捕まったら絶対何もかも丸ごと捧げてしまう。選択肢なんかこれっぽっちもない。 …それくらいすごかった…。 わたしはそのまま劇場を飛び出し、走ってどこまでも逃げた。理性を取り戻すまで、激しい欲情を振り切るまで。駅に飛び込み、地下鉄に乗って、滞在先の部屋まで駆け戻って、扉に鍵をかけてその場にへたり込んだ。 …俳優のオーラ、マジ凄すぎる…。 あんなん人殺せるよ、と大きく息をついた。ああ、本当にやばかった。あんなとこで本気でびくびくいったら。恥ずかしくて死んじゃう…。 わたしはようやく落ち着きを取り戻し、深呼吸しつつ心に誓う。立山くんの舞台を観てしまったら、絶対に袖には近寄らない。楽屋も駄目。自分と向こうのスイッチ切れるまでは接近禁止だ。
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