第14章 今まで通りじゃいられない

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東京での公演が無事に終わり、わたしたちは大阪に移動した。 移動日は少し余裕があったんだけど、残念ながら瀬戸さんとタクの家まで帰るほどではない。車で送ってもらえれば行けないこともないが、立山くんのついでもないし、わたしもはっきりと用事があるってことでもないからやっぱり言い出せずそれは断念した。その代わり再び立山くんのお家にお邪魔させてもらったり、彼と一緒に東京の街をぶらぶら歩いたり、一日だけ日帰りで自分の実家に顔を出したりした(神奈川県なので)。そしていよいよ新幹線で移動する。 「大阪初めてだ、わたし」 「大抵何処も初めてだろ、あんた」 車窓から目を離さないわたしと対照的に、多分数え切れないほど新幹線に乗ってる立山くんはだるそうに座席にもたれて呟いた。 「だって、高校の時は修学旅行と高校演劇大会くらいしか遠出したことないもん。高校生なんて普通そんなもんでしょ。そのままあんなど田舎の大学に引っ込んじゃったんだから、しょうがないじゃん」 「修学旅行何処だったんだ」 「沖縄。だから飛行機だったよ。…立山くんは?」 彼は眠ろうとするように目を閉じ、腕を組んで素っ気なく答えた。 「俺、修学旅行行ってない」 …ああ…、まぁ、そうか。 「今度、みんなでどっか行こうよ。立山くんのスケジュールに余裕がある時にさ」 「みんなって誰だよ」 わたしは宙を睨んだ。 「…後藤くんとか、板橋とか。岩見沢くんは立山くんと話したことはあるっけ?…あと、俳優女優の子も何人か誘えばいいじゃない?」 「竹田はいいんだ」 いや連れてくけど。 「…声かけなかったら泣くかな、と」 「竹田抜きならいいよ」 きっぱり言われて返答に詰まる。そんなに駄目すか、あいつ。 「だってお前たち人目も憚らずいちゃいちゃするだろ。周りの人間はやってらんないよあんなの」 いやわたしだってしたいわけじゃないんだよ、あんなこと。いつもいつだって。 「…そこは以後気をつけます」 「お前が気をつけてもしょうがないだろ。竹田の奴が気をつけないと」 そうなんだよね。わたしは内心で肩を竦めた。 「ご尤もです…」 その話はそこでなあなあに終わり、いつ何処でも眠れる芸能人体質の立山くんはそのまま眠りにつき、わたしは一人飽かず流れる窓の外の景色をずっと眺めていた。 新大阪に到着した。 移動日は少し間が空いたせいもあるのか、宿泊先のホテルに現地集合となっていた。
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