第13章 わたしには甘すぎる

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「…ちゆ」 劇場の建物を出て、だいぶ離れたところまでやってきた。事前にくれぐれも人前でべたべたくっつくな、と重々言い聞かせてあったことは確かだけど、きちんとそれを守ってわたしと距離を置いている。だいぶ躾られて聞き分けがよくなってきたな。と思った途端、背後からがしっ!といきなり抱きすくめられた。…心臓止まるかと思うじゃん。 「もう無理。限界。…これだけ劇場から離れたら、いいだろ。誰も見てないよ。ずっと触りたいの、我慢してたんだから」 「…うん」 耳許で渇いた声で囁かれ、思わず頷く。身体の変なところがじんと潤んだ。…やばい、わたしも。…久しぶりだから、こういうの。 今回の現場でわたしが立山くんの彼女だってことになっている事態については、少し悩んだけど前もって正直に伝えることにした。そのこと自体は嫌だと感じるかもしれないけど、目的を考えたら仕方ない、と納得してくれるんじゃないかと思ったので。 「だって、本当にいろんな人たちが出入りしてる場所だから。立山くん的にはいちいちわたしを見張ってるわけにもいかないし、そういうことにして美術の会社の人にわたしを保護してもらいたかったみたい。それは結果として異議はないでしょ」 『うんまぁ…、それは、構わないけど。実際に彼氏に見せかけようとべたべた触ったりしなければ』 無念そうに電話の向こうで呻く竹田にわたしはふん、と笑った。 「そんな、あんたじゃあるまいし。立山くんに限ってそんなことするわけないじゃん。指一本触れられてないよ、自慢じゃないけど」 そう口にしたあとに、そうだ、初日の乾杯の時に頭撫でられた。あまりに珍しいことだったから憶えてる、と思ったけど、その程度ならなかったことで構わないだろう。でも、思い出したのが返事したあとでよかった。おかげで逡巡することなく、自信たっぷりに断言することが出来た。…大したことでもないのに、答える時にうっかり怯んでしまって何かあったのかと勘ぐられるのは本意じゃない。 『それならまあ、いいけど。…仕方ないし、ちゆの安全のためなら』 そう言って結局納得はしてくれた。観劇が終わった後は竹田を連れに行って立山くんの楽屋に送り届け、友達面して適度な距離を置いて世話していたが、向こうはそろそろ我慢の限界に達してきたらしい。 「…まだ、地下鉄の駅まで着いてもいないよ」 背後からぎゅうぎゅうと抱きしめられながら囁き返す。
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