第14章 今まで通りじゃいられない

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別の場所の座席にいた吉木さん(一緒の席が取れなかったのか、要らん気を回したのかは知らない)と三人でタクシーに乗りホテルに向かう。 「あのね、驚かないで欲しいんだけど」 吉木さんが変にてきぱきした様子でわたしたちを誘導する。てか、ずいぶん上の階ですね。エレベーターに乗せられ果てしなく上がるがなかなか到着しない。 「わたし、何階ですか」 部屋番号教えてキーくれれば別に一人で行ける。てか、一人部屋なのかな。スタッフだし下っ端だから当然誰かと相部屋だろうな。美術の会社の先輩の松葉さんとか? 「うん、そこなんだけどね」 すっと停止したエレベーターの扉が軽い音と共に開く。だいぶ上の方、眺めのいい部屋?…あそうか、主演クラス俳優の宿泊する部屋を見せてくれるってわけ?慣れた感じでさっさと廊下を進む立山くんと対照的に、物珍しさに思わず辺りを見回してしまう。 たどり着いた扉はなんとなく下の階と雰囲気が違うような。扉と扉の間隔が広い。一部屋の占有率が違うんだろうな。 吉木さんはわたしにカードキーを渡してあっさりこともなげに言った。 「こっちがちゆちゃんの部屋。隣がジュンキね」 …ぶ。 わたしは手の中のキーをまじまじと見つめた。えーと…。ちょっと、これは。 「…あの、わたし、スタッフですよ?」 しかも超ぺーぺーのお荷物の研修生…。 「それは知ってるよ、大丈夫。まあ入って、まず」 横を見ると立山くんはさっさと自分の部屋に既に入っていった後だった。てか、わざわざ隣にする意味がどこにある?わたしはぶんむくれてとにかく鍵を開ける。あまりに分不相応な部屋だったら速攻替えてもらおう。 中は想像したほど異常な広さではなく、それはちょっと安心する。きつきつでこそないが、まあ常識の範囲内だ。スイートみたいな部屋だったら暴れるつもりだったが。 戸口でコンコン、と音がして振り向くと、開いたままの扉を吉木さんが注意を促すように軽く叩いていた。 「どう?この部屋」 「うんまぁ…、思ったよりかは広すぎないですが。でもこのフロア、俳優さんとか偉いさんの宿泊場所ですよね。気まずいです、こんなの。…下に替えてくださいよ」 「大丈夫、スタッフもいるよ。俺もこのフロアだもん。もう少し狭めの部屋があって、そこに泊まるよ」 「じゃあわたしもそっちにして下さいよ、せめて」 「駄目だよ、この部屋はちゆちゃんでないと」
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