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言うなりずかずかと入ってきて、それまでわたしが気づいてなかった目立たない白い扉の前に立つ。それをコンコン叩き、声をかけた。
「…ジュンキ、開けて」
ガチャリと音がして、無表情な立山くんが向こう側から顔を出した。…わたしはげんなり肩を落とした。
「…続き部屋じゃないですか!」
「そうだよ、だからここはちゆちゃんじゃなきゃ。俺たちは何も言わなかったんだけどさ、どうやら気を回してくれた人たちがいたみたいで。人気上昇中の若手俳優に秘密の彼女のいるスタッフフロアをうろちょろされるよりはいっそ上の階に二人ともまとめちゃえと思われたみたいだね」
わたしは呻いた。
「吉木さんの部屋と取り替えて下さいよ…」
彼はあっけらかんと笑い飛ばした。
「やだよ、せっかくそいつの手がかかんなくなったんだから。少し離れた部屋で夜くらいゆっくり寛がせてよ。それにちゆちゃん、そこちゃんとこっちからも鍵かかるよ。双方が開けないと行き来できない。さすがにそうでしょ」
わたしは扉に近づき、改めてしげしげと観察した。本当だ。二重扉になっていて、立山くん側とわたしの側、それぞれちゃんと内鍵がついている。
「なんだ、そっか」
「そりゃそうだよ。続き部屋として使わない時はホテルの方でちゃんと鍵を掛けて普通に別の部屋として使えるんだからさ。そんな神経質になることないよ」
わたしは向こうの部屋に戻りかける立山くんに声をかけた。
「ここはじゃあ、かけっぱなしでいいですね。鍵」
彼はこっちを振り向かずに返事した。
「お好きに」
「おっけー」
わたしはその扉を閉じて自分の側から施錠した。吉木さんが何だか不満そうに文句をつけた。
「何だ、せっかくの扉なのに。活用しないの?」
何のためにだ。
「だって、俳優さんとわたしたちスタッフだと仕事の時間帯も生活リズムも違うでしょ。お互いの邪魔しないようにきちんと別々に生活した方が立山くんのためにもよくないですか。それに、話があったり用事があったりしたら、何もこの扉使わなくても普通に表のドアノックするか、LINEしますよ」
吉木さんは難しい顔をして腕を組んだ。
「…何だろう、理屈はそうなんだけどさ。なんか今ひとつ色っぽい展開にならないな。こういうちょっと微妙な設定にどぎまぎとか全然しないの。…ちゆちゃんっていつもそんな何でもあっさり却下?そしたらあの彼はどうやってあそこまで漕ぎ着けたんだろうね?」
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